言葉と世界

                                                    今井むつみ 


言葉は世界への窓であるとは、言葉を通して世界を見たり、物事を考えたりしていることである。言葉は私たちの世界の見方、認識の仕方と、どのような関わりを持っているのか。例えば、「水」「緑」「左」を、大人と子どもは同じように理解しているのか、言語が違う人々は同じように理解しているのか。言葉による世界の切り分けとは多様である。
 「言葉によって世界を切り分ける」とは、カテゴリーに分けることである。カテゴリーとは、「同じ種類のモノの集まり」である。個体の名前である固有名詞ばかりでは、個体としての区別しかつかない。カテゴリーの名前を持つことの利点は、無限に存在する個体を意味があるまとまりとしてまとめ、「同じモノ」に共通の特徴のみを問題にして、世界を整理していけることである。カテゴリーは「モノのカテゴリー」だけでなく「動作のカテゴリーもある。
 モノとモノとの空間の位置関係を、言葉がどのように表現するか。言語は三次元空間上に無限に存在する二つのモノの位置関係を、非常に限られた数の「位置関係のカテゴリー」に区分けし整理している。例えば、「前」「後」「右」「左」について考える。「前」と言う言葉は、視点に依存し、相対的に決まる。自己中心枠とモノ中心枠の二つの視点がある。
 自己中心枠は、話し手の体を中心にして目のある方を「前」と言う。モノ中心枠は、モノにもともとある顔や進行方向などを「前」として中心にする場合である。
 「ボールは木の前にある」と言う場合、日本人は、木が自分と対面し自分の方に向いていると思うので、ボールは木と自分の間にあると認識する。ところが、ハウザの言語は、正面(顔)のないモノは自分と同じ方向に向いていると思うので、ボールは木の向こう側にある。
 私たちが「見ている」世界は、言葉が切り分ける世界そのものなのか、言葉が切り分ける世界は、私たちが「見ている」世界とは別のものだろうか。


1.学習プリントを配布する。
2.漢字と語句の確認をする。
 3)母語  4)容易  9)跳ぶ  担ぐ  
 6)カテゴリー=同じ性質のものが含まれる範囲。範疇。
 14)一義的=それ以外に意味や解釈が考えられないさま。
3.【指】段落番号を付ける。大段落に分ける。
  ・1〜19
  第一 1〜4
  第二 5〜9
  第三 10〜18
  第四 19


第一段落 1)〜4)
1.【指】第一段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
3.設問を考える。
1)1)【L1】「言葉は世界への窓である」とはどういう意味か。
  ・言葉をとおして世界を見たり、物事を考えたりしている。
 2)【L1】問題提起は。
  ・言葉は私たちの世界の見方、認識の仕方と、いったいどのような関わりを持っているのだろうか。
2) 【W】「水」という言葉を知らない小さな子どもはどのように理解しているか。
  ・英語では水と湯の区別がない。
  【W】「左」という言葉を知らない小さな子どもはどのように理解しているか。
  ・右利きの人が茶碗を持つ方。
  ・右利き主体の世界。右利きでも右で茶碗を持つ人は?
3)3)【L1】「同じ問い」とはどんな問いか。どのように言い換えているか。
  ・言葉を知る以前の子どもは、「水」「緑」「左」を大人と同じように理解しているのか。
  ・その言葉を持たない言語を話す人はどのように理解しているか。
  【W】「緑」とはどんな色か。
  ・信号機の色は「赤」「黄」「青」というが、実際は「緑」。青と緑の違いは。
  ・色の三原色。赤、青、黄→黒。
  ・光の三原色。赤、青、緑→白。
  【W】周囲にあるものの色を言う。
  ・ウェブで色見本を見せる。
4.板書する。
 
第一段落 1)〜4)
  
・言葉は世界への窓である
  
・言葉をとおして世界を見たり、物事を考えたりしている。
    

  
Q言葉は私たちの世界の認識の仕方とどのような関わりを持っているのか。
   
例「水」「緑」「左」
    
子どもの理解、違う言語の人の理解


第二段落 5)〜9)
1.【指】第二段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
3.【W】上位語下位語カード分類。
 1)ロイロでカードを配信する。
 2)個人で分類。
 3)二人で分類。
 4)四人で分類。
 5)代表がロイロで発表。
4.設問を考える。
5)1)【L1】「世界を切り分ける」とはどういう意味か。
  ・世界をカテゴリーに分ける。
6)2)【L1】「カテゴリー」とは何か。
  ・同じ種類のモノの集まり。
 3)【L1】固有名詞とは何か。
  ・カテゴリーではない。
  ・個体の名前。
7) 【W】「イヌ・ネコ・ウサギ・ネズミ」と「スヌーピー・キティ・ミッフィー・ミッキー」の違いを考える。
  【L4】すべての言葉が固有名詞だったらどうなるのか。
  ・個体としての区別しかつかなくなる。
8)4)【L1】「カテゴリーの名前を持つことの利点」は何か。
  ・無限に存在する個体を意味のあるまとまりとしてまとめ、「同じモノ」に共通の特徴のみを問題にして、世界を整理していけること。
  【W】動物を犬と猫に切り分けるとして、犬の共通点、猫の共通点、犬と猫の違いは何か。
  ・犬と猫の写真を見せる。
9)5)【L1】動作をカテゴリーに分ける利点は。
  ・さまざまな状況で行われる、無限に存在する動作を、動詞によってカテゴリー化し、整理する。
  【W】動作を表す動詞を挙げ、ロイロカードにし、分類していく。
  ・たたく、寝る、歩く、走る、飛ぶ。
  ・その動作の特徴を問う。
  ・ジョギングと競歩の違い。
5.板書する。
 
第二段落 5)〜9)
  
・言葉によって世界を切り分ける
            
カテゴリーに分ける。
   
↓利点      同じ種類のモノの集まり
  
・無限に存在する個体をまとめ、共通の特徴によって整理する。
          
動作


第三・四段落 10)〜18)・19)
1.【指】第三・四段落を音読する。
  ・重要だと思うところに線を引かせる。
2.【L4】線を引いた箇所とその理由を質問する。
3.設問を考える。
10)1)【L1】第三段落の問題提起は。
  ・モノとモノの空間の位置関係を、言葉がどのように表現するか。
11)2)【L1】問題提起に対する答えは。
  ・言語は三次元空間上に無限に存在する二つのモノの位置関係を、非常に限られた数のカテゴリーに区分けし、整理している。
12)3)【L1】モノどうしの位置関係を表すのに最もよく使う言葉は何か。
  ・前、後、右、左。
  【W】他に位置関係を表す言葉を挙げる。
  ・上、下、斜め、内、外、真ん中、端っこ。
13)4)【L2】「前向き駐車をお願いします」という場合の、車の止め方の基準は。
  ・通路に向かって前向き=通路から見ての「前」。
  ・反対の車=運転しているときの進行方向を「前」。
14)5)【L2】なぜ、このようなことが起こるのか。
  ・言葉は視点に依存している。
  ・相対的に決まる。
  ・一義的に決まるものではない。
  【L3】方向を絶対的にする方法は。
  ・東西南北を使う。
15)6)【L1】「二つの視点」とは何と何か。それぞれ一言で言えば。
  ・話し手の体を中心にして目のある方を「前」という場合=自己中心枠
  ・モノのもともとある「前」(顔、進行方向、正面)を中心にする場合=モノ中心枠
 7)【L2】前向き駐車の場合はどうか。
  ・通路に向かって前向き=モノ中心枠
  ・反対の車=自己中心枠
  【W】教師が生徒と対面して指示する。
   A1)右を向いて。
     ・教師基準か、生徒基準か。
    2)後ろを向いて。
     ・生徒基準。
    3)前向いて。
     ・教師基準
   B・プロジェクターは教室のどこにある。
   B1)(授業中)教室の前に集まれ
    2)(休み時間に)教室の前で待つ
    ・誰にとっての前か。
   ・ビデオを撮る。
  【W】道案内のワークをする。
   ・地図を見せて、出発地から目的地までの行き方を説明させる。
16)8)【L2】「ボールは木の前にある」と言った時の、日本語での、ボールの位置は。その理由は。
  ・木と自分の間。
  ・木が自分の方を向いている。
17)9)【L2】「ボールは木の前にある」と言った時の、ハウザ語でのボールの位置は。その理由は。
  ・木の向こう側。
  ・木が自分と同じ方向に外に向いている。
 10)【L1】この食い違いはどんな場合に起こるのか。
  ・モノにもともと正面がない場合。
  ・自己中心枠で考える。
19)11)【L1】「素朴な疑問」とは。
  ・私たちが「見ている」世界(a)は、
   言葉が切り分ける世界そのもの(b)なのだろうか。
  ・言葉が切り分ける世界(b)は、
   私たちが「見ている」世界(a)とは別のものだろうか。
4.板書する。
 
第三・四段落
  
Qモノとモノの空間の位置関係を、言葉がどのように表現するか。
  
A言語はモノの位置関係を、カテゴリーに区分けし、整理している。
   
例「前向き駐車をお願いします」
    
通路から見ての「前」   │運転者から見ての「前」
    
モノのもともとある「前」│話し手の目のある方を「前」
    
「モノ中心枠[     │「自己中心枠」
     

   
・視点に依存している
   
・相対的に決まる
   
例「ボールは木の前にある」
    
日本語           │ハウザ語
    
─────────   ┼──────────────────
    
木と自分の間        │木の向こう側
    
木が自分の方を向いている │木が自分と同じ方向に向いている
                    

    

  
・素朴な疑問
   
・「見ている」世界=言葉が切り分ける世界
   
・「見ている」世界≠言葉が切り分ける世界